Interview
なす産地の技術力と地域の輪が就農の力強い味方に!
「露地+施設」で1年を通して安定収益を実現
一宮市でなすを育てる加藤さんは、農業未経験からスタートした農家の一人です。産地ならではの技術や周囲のサポートを受けながら、露地と施設を組み合わせた栽培で、安定した農業経営を続けています。
なす農家として積み重ねてきた加藤さんの8年間の歩みをたどります。
加藤 正人さん

- 栽培品目なす
- 栽培面積露地10a、施設10a
- 農業形態独立(自営)
- 就農場所愛知県一宮市
- 就農年2018年
- 出身地愛知県小牧市
- 年齢(就農時)55歳
- 技術習得方法はつらつ農業塾 担い手育成コース
※2026年時点の情報です
土木関連企業の会社員を経て、未経験から農業の道へ
一宮市での研修制度やサポート体制を知り、研修・就農を決意
加藤さんは約30年間、土木関連の仕事に携わってきました。50歳を過ぎてから「リタイア後もやりがいを持って取り組めることを続けたい」という思いが芽生え、次の働き方を考えるようになったといいます。そのなかで「農業なら、生涯現役でいられるかもしれない」と感じたことが、就農を意識するきっかけになりました。
SNSで検索し、訪れた愛知県の相談窓口から「JA愛知西(管内:一宮市、稲沢市)は担い手の育成に熱心で、サポート体制も整っている」と紹介され、一宮市での研修・就農を視野に入れ、準備を進めていきました。
なすは「小さな面積で収益が確保できる」作物
未経験から農業に挑むにあたり、まずはひとつの作物で小規模に始めることが現実的だと、加藤さんは考えました。候補に挙がっていたのは「だいこん」と「なす」。だいこんは収穫が一度きりで広い面積が必要なのに対し、なすは栽培期間中に何度も収穫でき、限られた面積でも運営しやすい点が魅力でした。
農業経験のない自分にとって、広い畑を抱えるのは難しいと思いました。なすなら作業面積を抑えながら勝負できますし、「これ一本でいける」と判断したんです。
愛知県は全国でも有数のなすの産地。なすはJA愛知西の販売額第1位品目で、地域に蓄積された技術やノウハウを学べる点も、加藤さんがなす栽培を選んだ理由のひとつでした。
産地だからこそ学べた技術と人のつながりが就農を後押し
農業塾の担い手育成コースで2年間研修
加藤さんは、一宮市・稲沢市・JA愛知西が共同で開催する「はつらつ農業塾 担い手育成コース」で、2年間の研修を受けました。1年目は基礎的な栽培管理。2年目は専攻品目でなすを選び、一宮市のベテランなす農家での実地研修を受けました。年間の研修時間は1年目・2年目ともに1,200時間と、実際に農家が作業するのに近い密度で学べるのが特徴です。
※現在は塾生の受け入れ対象が「就農時に50歳未満」に限定されています。
研修期間中の生活費は、これまでの貯蓄に加えて、会社員時代に取得していた介護ヘルパーの資格を生かし、介護の仕事を並行して行うことでまかないました。
農地や施設は、研修先農家の紹介でスムーズに確保
新規就農では、農地をどのように確保するかが大きな課題になります。加藤さんも、1年半かけて候補地の周辺を何度も歩き、借りられる土地を探していました。
そんな中、骨組みだけになっているビニールハウスを見つけます。所有者が、農業塾の研修先農家と知り合いだったことから紹介を受け、あいさつにも同行してもらって無事に借りることができました。
本当に幸運でした。もし自分一人で交渉していたら、話がまとまらなかったかもしれません。
「はつらつ農業塾」で出会ったベテラン農家が、地域との橋渡し役となってくれたことは、独立就農への大きな支えになりました。
市の認定を受け、初期投資に融資制度や補助金を活用
施設栽培は露地栽培に比べて初期費用がかかるのがネックですが、加藤さんは初期投資費用について、いくつかの融資や補助制度を組み合わせることで対応できたといいます。
機械の導入には低金利の「農業近代化資金」、さらに日本政策金融公庫の「青年等就農資金(無利子融資)」を活用しました。「はつらつ農業塾」で2年間学び、市から「青年等就農計画」の認定を受けたことで、この融資の対象になりました。また、一宮市とJAからも一部補助を受けることができたんです。
利用できる制度を選び、確実に準備を進めたことが、経営を支える基盤となりました。
露地と施設を組み合わせ、年間を通して収入を確保
出荷には産地で確立されたルートを活用
2年間の研修を経て就農し、現在8年目を迎えた加藤さん。当初は一人で農業を始めるつもりでしたが、研修をしていくうちに「一人では成り立たない」と実感するようになったといいます。幸い農家出身の妻が手伝ってくれることになり、夫婦二人三脚で農業を続けています。
栽培面積は、露地10a(1,000㎡)と施設10a(1,000㎡)の計20a。露地なすは5月中旬に定植(植え付け)し、10月末まで収穫が続きます。一方、施設では9月中旬に定植し、翌年7月上旬まで収穫が可能です。この二つを組み合わせることで、1年を通じて収入が途切れにくい農業経営を実現しています。
一宮市は名古屋市に近く、市場や流通拠点へのアクセスが良好な点や、なすの評価が高く比較的高い単価で取引されていることが強みです。加藤さんも、収穫したなすはすべてJAを通じて市場へ出荷しています。産地として確立された販売ルートを活用できることが、経営の安定につながっています。
加藤さんの年間スケジュール
産地だからこそ、技術を磨ける環境と仲間の存在が心強い
就農後も、研修時代に築いた人とのつながりが大きな支えになっています。地域のなす部会※には、研修先農家の「師匠」をはじめ、ベテランから若手まで約30軒の農家が所属。巡回指導や勉強会が定期的に行われ、日々の栽培や経営について情報を共有できる環境です。
※品目ごとに組織される生産者の集まり
また、県や市、JAなどによる新規就農者向けのサポート体制も整っており、就農後も技術面や経営面について相談できる場があります。
ありがたいことに、ここは相談する相手に困りません。先輩農家さんや県の普及指導員、JAの営農指導員、資材業者さん、部会の仲間など、誰かに声をかければ必ず話を聞いてもらえる。こんな環境は、なかなかないと思います。
部会の先輩農家の「自分一人で抱えるな」という言葉は、加藤さんの心に強く残っています。困ったときに自然と手を差し伸べてもらえる仲間や環境に心強さを感じてきました。
自分自身で決断し、工夫しながら続けられるのが農業の魅力
自分でコントロールできるからこそ、結果に納得できる
さまざまな課題に直面したとき、地域の人たちにアドバイスをもらいながらも、まずは自分自身で判断して課題解決に臨みます。天候などに左右される難しさはありますが、自分で考え、工夫した結果がそのまま形になることにやりがいを感じています。
一日の作業を自由に組み立てられることも農業ならではの魅力です。積み重ねた日々の作業が成果につながることに手ごたえを感じ、良い年もそうでない年も含めて、すべてを自分の責任として受け止めています。
多くの食卓につながっているという実感が、農業を続ける原動力に
就農後の収量や売上は、年ごとに大きく変動してきました。1年目は出荷できる期間が短かったことから売上は300万円程度でしたが、2年目は900万円と、以降は徐々に安定。一方で、同じ作物を連続して栽培すると起きる連作障害による生育不良や家族の体調不良など、予期せぬできごとが重なり、収益が落ち込んだ年もあったといいます。
就農8年目を迎えた今、「農業を始めてよかった」という思いは変わりません。自分で育てたなすが、どれほど多くの人のもとに届いているのかを想像することも、日々の励みになっています。
1年間に出荷するなすは、重さにすると約20トン。およそ16万本にもなります。8年間続けてきたと考えると128万本。もし一人が1本ずつ手に取ったとすれば、128万人の消費者になすを供給してきた計算になります。農業は本当に多くの人に支えられ、そして多くの人を食で支える仕事だと実感します。
加藤さんは、将来を見据え、栽培面積や作業量、体力とのバランスを見極めながら、「続けられる農業」を軸に、生涯現役を目標にしたいと考えています。
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