Interview
公務員からあこがれのいちご農家に!
手厚いサポートを受け1年目から売上1,700万円を実現
愛知県岡崎市のいちご生産者・鴨下さんは、会社員、公務員というキャリアを経て就農しました。
JAあいち三河の新規就農者向け研修「いちご塾」を1期生として受講し、夫婦で経営を開始。現在まで安定した農業経営を行っています。
地域からの手厚いサポートを受け、技術を習得し農地、ハウスも確保。農業を“仕事”として成立させてきました。
鴨下 里美さん

- 栽培品目いちご
- 栽培面積高設20a、土耕10a
- 農業形態独立(自営)
- 就農場所愛知県岡崎市
- 就農年2020年
- 出身地長野県
- 年齢(就農時)45歳
- 技術習得方法JAあいち三河「いちご塾」
※2026年時点の情報です
生計を立てられる品目としていちごを選択。あこがれの専業農家に
家族との時間を大切にしたいと就農を決意
鴨下さんの実家は兼業農家で、農業は身近な存在でした。農学部に進学し、卒業後は環境測定会社を経て、農林水産省の植物防疫所に勤務しました。
やりがいのある仕事でしたが転勤や夜勤も多く、子どもが成長するにつれ、家族との時間を増やしたいと考えるようになり退職を決断。もともと農業にあこがれていた鴨下さんは、居住地の岡崎市で農業を仕事にできないか具体的に考え始めました。
現場を知るため農家でアルバイトを経験
まずは農業の現場を知ろうと、いちご農家となす農家でアルバイトを経験。栽培作業だけでなく、収穫量や売上、経費の考え方など、経営に関する話を聞き、具体的な数字に触れるなかで、「農業で生計を立てる」イメージが少しずつ現実味を帯びていきます。
いちごかなすでの就農を考えましたが、なす栽培は力が必要な作業が多く、女性が一人で続けるのは大変だと思いました。 一方で、いちごの作業は女性でもでき、経営面でも農業として成り立つ可能性を感じました。
充実した研修と手厚いサポートのもとで技術を習得
いちご塾生として1年間栽培と経営の基礎を学ぶ
いちご農家になることを決めた鴨下さんは、JAあいち三河の「いちご塾」で研修を開始しました。地域のいちご産地を守り、次の担い手を育てるための研修制度です。
研修では、先輩農家のもとで1年間を通して栽培を経験。作業内容や使用した資材、農薬を記録し、翌年以降に活用できるよう整理していきました。
座学では、県の普及指導員から栽培理論を学んだほか、農業大学校の研修にも参加。農業全般の基礎や経営、簿記などの知識を深めました。農業大学校では、就農計画を作成する際にも手厚いサポートが受けられたと当時を振り返ります。
ハウスはリースで確保。初期投資を大幅に軽減
就農準備で大きなハードルになるのが、ハウスや農地の確保。条件に合うハウスが見つからず、調整は難航します。そうした状況を受けて進められたのが、JAによるいちご生産団地※の整備でした。
完成したいちご団地で高設栽培用のハウスをリース契約することで、初期投資を大きく抑えて栽培を始めることができたのです。
※生産団地とは、特定の農産物の生産を大規模かつ集約的に行うために整備された農地や施設のこと。
ハウスをリースできたのは本当に大きかったですね。同じ規模の設備を自分で建設するなら6,000万円くらいかかると思います。14年間のリース期間が終わっても希望すれば継続して利用でき、将来的にも安心して経営できる環境だと思いました。
いちご団地には鴨下さんが研修時代に指導を受けた先輩農家のハウスもあり、設備や管理について判断に迷ったときには、すぐに相談できる環境が整っているのも大きな支えとなっています。
想定外の出費に備えて補助金や融資も活用
就農にあたって400万円を準備していた鴨下さん。軽トラックやいちごを冷やすための業務用冷蔵庫、作業用ハウスの整備などに約300万円、土や肥料、農薬といった資材の購入などの運転資金として100万円程度がかかりました。
ただし、すべてを自己資金で賄うのではなく、農業次世代人材投資資金(準備型・経営開始型)※や、日本政策金融公庫の青年等就農資金(無利子融資)も利用。資金面で過度な不安を抱えずに就農をスタートできたといいます。
※ 現在の新規就農者育成総合対策(就農準備資金・経営開始資金)
夫婦で役割分担。農業経営を安定させ、家庭での時間も増えた
20aから始まった夫婦でのいちご農園経営
就農当初は、鴨下さん一人で農業を始める予定でしたが、20a (2,000㎡)のハウスを借りられることになり、経営の見通しが立ちました。そこで、夫も農業を選択し、勤めていた会社を退職、夫婦でいちご栽培に取り組む体制となりました。鴨下さんが主に栽培作業を、夫が主に経理業務を担当しています。
鴨下さんの年間スケジュール
いちご栽培では、3月から9月にかけて次作の育苗を行い、9月に定植します。12月から翌年5月までは収穫・出荷の時期にあたり、収穫量は3〜5月にピークを迎えます。この時期は、育苗と収穫が重なるため、年間で最も忙しくなります。
季節ごとの忙しさに合わせて、家庭内でも役割分担を工夫しています。出荷が忙しい時期は、夕食づくりを夫が担当。出荷のない時期は鴨下さんが担当するなど、無理のない形で農園経営と生活を両立しています。
4年目に10aのハウスを増設。売上は順調に推移
収穫したいちごはすべて、JAを通じて販売しています。安定した出荷ルートが確保されていることは、経営にとって大きな安心材料です。
2020年に経営をスタートさせた鴨下さんの初年度の売上は約1,700万円。当初から目標経営指標をクリアできました。3年目には2,000万円を超え、売上は順調にアップしています。
2023年には土耕栽培のハウス10aを増設し、経営規模を拡大しました。
ただ、鴨下さん自身は天候や作柄、市場状況によって結果が左右される農業の難しさを実感しているとも話します。
新規就農者が増え続ける、いちご産地で就農するメリット
JAあいち三河が運営する「いちご塾」は、これまでに18名が卒業し、現在も3名が研修に取り組んでいます。鴨下さんもそのひとりとして、産地のなかで学びを重ねてきました。
岡崎市いちご部会※は43名が所属し、若手からベテランまで幅広い世代が集まっています。勉強会やハウス見学を通じて、栽培方法や管理の工夫を話し合う機会も多く、鴨下さんにとっても刺激になる場です。
※品目ごとに組織される生産者の集まり
品質のよいものを作り、収穫量を上げることで経営の安定化をめざす
判断と工夫を積み重ねる、いちご農家の仕事
鴨下さんは、農業を「自分の判断と結果が直結する、シンプルな仕事」だと捉えています。作り方や規模、働き方まで、すべて自分で決められる一方で、成果も責任も自分に返ってくる。その分、結果には納得感があり、次の改善につなげやすいといいます。
いちご栽培で最も重要なのは苗づくり。気象条件は毎年変わるため、達人のやり方をそのまま真似しても同じ結果にはなりません。生育状態を見ながら最適解を探る試行錯誤こそが、鴨下さんが感じるいちご栽培のおもしろさです。
収穫量を増やすことが経営安定のカギ
公務員時代と比べ、就農してからは家族と過ごす時間が増えました。忙しさや経営のプレッシャーはあるものの、農家に転身してよかったと感じています。
鴨下さんが掲げている目標は、「品質の良いものを作ること」と「収穫量を伸ばすこと」。
反収(10aあたりの収穫量)8t以上を安定して確保することが現在の目標です。市場価格は自分で決められないからこそ、収穫量と品質を積み上げることが、結果的に売上につながるのではないでしょうか。
現在は、将来を見据えた新たな取り組みにも挑戦しています。地域の環境や栽培条件に合った可能性を探るなかで、愛知県のオリジナル品種「愛きらり」の栽培を始めました。
愛知県ならでは、地域ならではのいちごづくりを、自分の農園から少しずつ形にしていきたいという思いで、日々いちご栽培に向き合っています。
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